心の隙間を埋める舞台装置
説教スナック「わたしの浄化待ち」とは、2014年にスタートしたイベントである。
そのとき私は星加ルリコさん(RURIKO PLANNING代表)と徳本賀世子さん(トルチェジョーヌ代表)と飲んでいた。星加さん、徳本さんはともに会社の代表(社長)であり、神戸では知らぬ人がいないほどの「経営実力者」だ(徳本さんはその後イタリアへ渡った)。
その3人で飲んでいて、現代社会には荷を背負い過ぎ、責任を持たされ過ぎている人が多く、そんな状況を打破するための「カタルシス(浄化)」が要るね、ということになったのだった。
個人事業主や経営者、会社役員などといった「人の上に立つ役職にある人たち」は、日ごろ部下を指導したり教育をしたり、つまり評価を下す側の人だ。
だから場合によっては文句を言われたり、批判されたりもする。
しかしながら、そのことで悪態をついたり愚痴をこぼす相手もいない。
そういう人の心の隙間を埋めるようなことを、真剣に遊びながらでも行うことには価値があり、意味があるのではないか――
そういう趣旨だったと思う。
言うまでもなく、1971(昭和46)年に大ヒットした小柳ルミ子の「わたしの城下町」(作詞:安井かずみ、作曲:平尾昌晃)をもじったものである。
これがウケて、レディが悩みを聞く一夜限りの場「説教スナック わたしの浄化待ち」を作ってみようということになった。いわば、大人の悩みを「浄化」する舞台装置として、「叱る」、「説教する」、「託宣する」という形式の一夜限りの酒場型アートパフォーマンス催事である。
流れ上、私が「チーパン」(ほぼマスターのようなもの)となり、星加さんと徳本さんが昭和の歌謡スターの「ママ」に扮して行う「説教スナック わたしの浄化待ち」が、こうしてスタートした。
第1回目は2014年に神戸で開催され、以降断続的に神戸で何度か開催された。2016年には「神戸別品博覧会」という、神戸を舞台にしたNHK朝ドラ「べっぴんさん」を盛り上げる企業の催事場でも開催された。
当時参加した男性経営者は「家族の悩みを打ち明けたが、『すべてを捨ててイタリアに行け』という責任を負わない助言に、逆にさっぱりした」と笑顔で話した。同じく女性デザイナーは「あるがままの自分で良いのだと心が軽くなった」という感想を残してくれた。
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