説教スナック「わたしの浄化待ち」とは

説教スナック「わたしの浄化待ち」とは

ここがキニナル!2022年7月1日、異様に蒸し暑い大阪の町で「説教スナック わたしの浄化待ち」という何やら怪しい催しが、きわめてクローズドな形式で行われた。本稿はその催しの趣旨と当日の様子などについてのレポートである。(執筆=吉川 公二)

心の隙間を埋める舞台装置

説教スナック「わたしの浄化待ち」とは、2014年にスタートしたイベントである。

そのとき私は星加ルリコさん(RURIKO PLANNING代表)と徳本賀世子さん(トルチェジョーヌ代表)と飲んでいた。星加さん、徳本さんはともに会社の代表(社長)であり、神戸では知らぬ人がいないほどの「経営実力者」だ(徳本さんはその後イタリアへ渡った)。
その3人で飲んでいて、現代社会には荷を背負い過ぎ、責任を持たされ過ぎている人が多く、そんな状況を打破するための「カタルシス(浄化)」が要るね、ということになったのだった。
個人事業主や経営者、会社役員などといった「人の上に立つ役職にある人たち」は、日ごろ部下を指導したり教育をしたり、つまり評価を下す側の人だ。
だから場合によっては文句を言われたり、批判されたりもする。
しかしながら、そのことで悪態をついたり愚痴をこぼす相手もいない。
そういう人の心の隙間を埋めるようなことを、真剣に遊びながらでも行うことには価値があり、意味があるのではないか――
そういう趣旨だったと思う。

そこで私が、「わたしの浄化待ち」というフレーズを口にした。
言うまでもなく、1971(昭和46)年に大ヒットした小柳ルミ子の「わたしの城下町」(作詞:安井かずみ、作曲:平尾昌晃)をもじったものである。
これがウケて、レディが悩みを聞く一夜限りの場「説教スナック わたしの浄化待ち」を作ってみようということになった。いわば、大人の悩みを「浄化」する舞台装置として、「叱る」、「説教する」、「託宣する」という形式の一夜限りの酒場型アートパフォーマンス催事である。

流れ上、私が「チーパン」(ほぼマスターのようなもの)となり、星加さんと徳本さんが昭和の歌謡スターの「ママ」に扮して行う「説教スナック わたしの浄化待ち」が、こうしてスタートした。
第1回目は2014年に神戸で開催され、以降断続的に神戸で何度か開催された。2016年には「神戸別品博覧会」という、神戸を舞台にしたNHK朝ドラ「べっぴんさん」を盛り上げる企業の催事場でも開催された。
当時参加した男性経営者は「家族の悩みを打ち明けたが、『すべてを捨ててイタリアに行け』という責任を負わない助言に、逆にさっぱりした」と笑顔で話した。同じく女性デザイナーは「あるがままの自分で良いのだと心が軽くなった」という感想を残してくれた。

「これで前向きに仕事をし、生きていける」

フロアレディーは、普段は会社のトップや役員や専門職のプロフェッサーたちだ。

さて、今回開催された「わたしの浄化待ち」でも、酒場のような空間に「フロアレディ」が待っていた。
レディたちはそれぞれに昭和の歌謡スターに扮している
奥村チヨ、加賀まりこ、アン・ルイス、ジュリー(沢田研二)、八代亜紀、森昌子、松坂慶子、小柳ルミ子……錚々たるラインナップだが、彼女らは、普段は会社のトップや役員や専門職のプロフェッサーたちである。
ある意味狭い神戸のコミュニティの中で「わたしの浄化待ち」の噂を聞きつけ、自分も「フロアレディ」になりたいというリクエストが相次いだ結果、そのような女史たちが、真剣に本気のメイクや衣裳によって、一夜だけの「フロアレディ」に変身したのだ。

参加者はお酒を片手に、お気に入りのフロアレディの席前に着き、そこで悩みや困りごと、気になることなどをレディに吐露する。

「嫁に困っている」「子どもが心配だ」……。さまざまな悩みに苦しむ参加者にフロアレディが「説教」を垂れる。

中には昼間の世界では絶対に誰にも相談できないような真剣な悩みごともある。フロアレディはそれを真剣に聞き、斜め上から目線での「回答」を、時には説き伏せるような形で「説教」する。
仕事上の苦悩、家庭の不和、よんどころのない事情、現在・過去・未来に於ける様々な悩みや苦しみや不透明な事象。中には「嫁に困っている」「子どもが心配だ」といったシビアな内容も吐露された。レディたちが昭和の歌謡スターに扮しているので、あたかも高級クラブやラウンジにいるかのように錯覚し、高級ママさんにすべてを預けるように話してしまうのかもしれない。日常には存在しない、非日常の舞台だからこそのやりとりである。

参加者は叱られ、説教されてはじめて自分の悩みの小ささに気づく。

「そんなのどーでもいいんじゃない」
「アナタ、真面目に考え過ぎだよ」

参加者の一人、神戸・長田区でタクシー会社を営む男性(60代)は、次のような言葉を残して、満面の笑みで神戸まで帰っていった。
「お昼の世界では交わすことのできなかった『交信』をした。これで明日から更に前向きに仕事をし、生きていくことができる」。

斜め上からレディにずばりと言われることで、己の苦悩が自分だけの妄想であるというように認識が改められ、「浄化」された参加者は、その場から得られた気づきや発見を「ご託宣」という形で短冊に書き、それらを壁に張り出した。

これらを見ると、そこから新しい気づきや出会いや問題提起がスパークしていることが了解される。

「受け入れる」
「あと20年 全力投球」
「嫁とは来世も一緒」
「たくわえて飛ぶ」

参加者が正しく(?)浄化され、アップデートのきっかけを掴んだことがわかるのである。

次回開催日は未定だが

「わたしの浄化待ち2022]告知ポスター

フロアレディで「ママ」役の星加ルリコさんは、向上心たっぷりに、
「普段は少し斜め上から目線などで言われ慣れていない人にそうした視点で『説教』することは、レディたちのスキルアップにもつながる」
という。
日常の世界では上下逆の関係かもしれない「立ち位置」を変えて、ともに考えることによって、フロアレディたちの新しい経験と研修の場にもなっているのかもしれない。

次回に向けて

私(吉川)は、「わたしの浄化待ち」の名付け親でもある。
そしてこのように「大真面目にフザけ、真剣に遊ぶ大人の場所や機会」が増えた方が社会や街は面白くなるのではないか、と考えている。
昭和の歌謡スターに扮したフロアレディがお客の悩みや愚痴を聞き、叱り飛ばし、説教し、御託宣を告げるというアートパフォーマンス酒場イベント「説教スナック わたしの浄化待ち」は、いつかは分からないが、今後も確実にどこかで開催され続けるだろう。
不思議な魔力(魅力?)の詰まったアート催事であることには間違いがない。


    
    

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