奈良にはやはりウラ若き本気の伝統工芸作家がいた

奈良にはやはりウラ若き本気の伝統工芸作家がいた

 

本物を手にして日常に取り入れてほしい

「なら工藝館」に展示中の「沈金流紋箱」

 

―デザイン面や造形面で新たに考えていることは。
これまで作ってきたものは、酒器やアクセサリーなど比較的小さいものが多かったので、大きい作品が作りたいです。現在の自分の技のすべてを詰め込んだしっかりしたものが作りたい。工芸展に出した六角の箱(宝物入れ)は、大きい作品でした。今、「なら工藝館」で展示していただいている作品「沈金流紋箱」も大きな作品です。
―硯箱がいいかもしれませんね。
いいですね。初心に戻って(笑)。
―ネット上で、自分のブランドについて八尾さんが話しているのを読みました。
数年前の発言です。私の作品の特徴というか、「この作品は八尾さつきの作品」という認識が徐々に出始めているので、当時に比べると少しずつ自分のブランドというものに近づいているのかもしれませんね。作品には小さく、さつきの「皐」と付けているものもあります。
―これからの生活様式の中で、漆器はどんなふうに使われていくでしょうか。
漆器は、使う人の少し特別な日常を演出するものです。たとえば、この漆のお箸を使うから今日は気分があがる、という気になっていただけるものを作っていければ嬉しいです。
―漆器の作り方や道具、技術などは進化しているんですか。
おそらくですが、技術や道具などが大きく変わった時代が大昔にあり、それ以降は変わっていないと思います。基本的な技術などは変わっていませんし、変える必要もないと思います。「本物」を手にしていただき、理解していただき、日常に取り入れていただくことが肝心ですね。
―八尾さんはまだお若いですが、八尾さんよりも若い世代はどんな状況ですか。
私と同世代の作家は少ないと思いますし、私より下の世代はまだ二十代などですので、世にあまり出て来ていません。時々は出会いますし、狭い世界なのでおおよその状況は把握しています。四十代、五十代の作家さんはまだたくさんおられます。伝統工芸としての作家の継承者は少ないですが、クラフト分野として漆を習う方は比較的多いです。今は何とかなっていますが、私が五十代、六十代になったとき、どのようなことになっているのかは気になるところですね。
―そうした意味でも理解者を増やしたり、作り手を増やすことは大切ですね。
私は奈良で個人で作っていますので、そこまでの影響力はありませんが、展示会やワークショップなどの草の根的な活動で、少しずつ興味を持ってもらう人を広げたいと思います。私よりも上の中堅世代の作家さんは、業界の青年会活動、たとえば幼稚園で使う食器を漆器にする活動などもされています。私も微力ながらこの漆器の世界を広めたり、良さや歴史を伝えたりしていきたいと思います。
―八尾さんが先生としての教室も始まります。将来につながるといいですね。
たとえば漆をやる人は陶器の金継ぎができます。最近は金継ぎがちょっとしたブームにもなりました。そのように様々な入口がありますので、そうしたことを通じて漆や漆器のことを知っていただきたいとも思います。
―ありがとうございました。
「なら工藝館」にて
インタビューを終えて
八尾さつきさんのお話しを伺って「温故知新」という言葉を思い浮かべました。まだ若手といってもよい八尾さんは一見「伝統工芸作家」らしくない作家さんです。しかし、八尾さんは地道に基礎を学び、伝統的な技を理解・習得し、そして新たな世界観を創造していこうとされているしっかりとした作家さんでした。柳宗悦は「用の美」という見方を示しましたが、奈良漆器には機能美を超える上級の「美」があるように感じました。普段あまり伝統工芸品を気に留めることはありませんでしたが、今日から少しずつでも漆器をはじめとする工芸品に意識をしていきたいと思います。
取材:吉川公二/写真:河北航太
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