完全オーダーメイドで2年待ちの万年筆に、世界から注文が殺到している理由

完全オーダーメイドで2年待ちの万年筆に、世界から注文が殺到している理由

書かれた文字からその人の精神状態までわかる

― 万年筆を使う目的で特に多いのは、やはり手紙。すごくよくわかります。年賀状も今はほとんど印刷だし、便利な情報ツールはいろいろあっても、お礼状などでちゃんと感謝を伝えたいし、ここぞという手紙は、肉筆の手紙を送りたいという気持ちが私にもあります。
万年筆にはまる人というのは、どんな方でしょう。万年筆の魅力とは。
まず、少なからず字や絵を書いたり描いたりするのが好きで、楽しいという人でしょうね。あとは、ちょっと面倒くさいことが好きとか。万年筆って面倒くさい道具だと思うんです。いちいちインク入れないといけないですし、たまには洗ってやらないといけない。でも、そんなところに日常の中で癒しを感じたい人もいるわけです。
― 車をきれいに洗車するのが気持ちよくてはまる感覚に近いかも。可愛いというか、自分のものだからきれいにして、インクも入れてあげる、という感覚でしょうか。
お便りを頂いて、それにお礼の返信を書く喜びを感じたり。儀式的なお手入れや、字の書き心地を楽しむようなことが気持ちいいんでしょうね。
― 万年筆で書いた字は、一字一字書いたという感じがしますよね。
お便りをもらうと、書かれた文字の一つ一つにその人の個性があらわになっていて、精神状態などもわかります。ずいぶん考えながら書いているな、とか。
― 山本さんのご自身は、何本くらい万年筆をお持ちなのですか?

新しい素材のものを開発する時は、自分自身が実験材料になって何年も使ってみなければならないので、本当に自分用のものは作ったことがないんですよ。寿命が縮むというと言い過ぎかもしれませんけど、一本の万年筆を作るには、かなりのパワーを使うので、自分用に作ろうとは思わないんです。初めてのデートでピクニックに行くときに、彼のため朝早くから一生懸命お弁当を作る女の子はたくさんいますが、会社に持っていくお弁当にそこまで気合いを入れる女の子はいないですよね。
ただ、矛盾するようですが、自分で使いたくないようなものは納品できません。木に変な癖があったり変な穴があいていたり、よく見ないと分からないようなものでも、気になるようなものはボツにします。例えばキャップひとつ作るのにも1週間かけるのですが、最後に磨き上げる時に、何なんだこの柄は、と気づいてしまうと嫌になるんですよ。苦労して作ったのにという気持ちもありますが、「いや、もう一回、いちからやろう」と思いますね。そんなふうに、自分が作ったものは、『自分が作ってもらうなら』という目でしか見ませんね。
まさに職人のこだわりを感じさせる山本さんの言葉でした。
 

 
そんな山本さんは、お客様が待っている2年の間に手紙でやりとりをされるそうです。
はい、それはやはり大事なことだと思っています。作り手として、買い手と直接お会いしてお話したり、お便りをやりとりしたり、密接にコミュニケーションして一本の道具を作っていきます。
万年筆というのは、何か欲しくなるきっかけがある場合が多いんです。30歳になったとか、結婚したとか、子どもが生まれたとか。そこに様々なストーリーがあって、それをお便りで知らせていただくのが、とても楽しいんです。2本目、3本目のリピート注文をしてくださる方とは2回、3回お会いすることになるわけですが、そうやってお話しして、やっとわかることもあります。そうやってその方の人生を意識しながら作っているわけです。
でも、実際にはコミュニケーションをとる時間がなかなかとれないこともあるし、お便りも全員には書けない。万年筆を作る時間そのものも限られている。もっとたっぷり時間を持てたらと思うことが多いんです。一生の間に何本の万年筆を作れるかということは決まってしまっていますから、その本数が決まっている万年筆を渡すことができるお客様とは、ご縁があるということですから、なるべく密度高くコミュニケーションして、最高のものを作りたいと思っているんです。
――山本さんがそんなこだわりの万年筆を作るに至るまでには、長い歴史があったようです。

 

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