去年(2021年)、生まれて初めてバレエ公演を観て、驚いた。「踊り」だからダンサーが喋らないということは理解していたのだが、実際に舞台を観て、ダンサーたちが本当にまったく喋らないことに改めて驚いたのだ。ダンスによって饒舌な表現が紡がれ、会話以上のコミュニケーションが物語とドラマを進めていた。そしてフルオーケストラが、その物語をハーモニーとリズムと旋律の振動で感動的に仕上げていくのであった。夢と愛とロマンに溢れた舞台をダンスという身体表現で披露するバレリーナ、上山榛名さんの肉声を聞きに出かけた。
(インタビュアー:吉川公二)
踊り終えたときには、喋り疲れたような感覚になる
― 昨年の「海賊」で、初めてバレエの舞台を見ました。パワー、運動量、美しさに驚き、魅了されました。
喜んでいただいてよかったです。「海賊」は運動量が多く、フィジカル的にもハードな作品でした。私はギリシャの娘メドーラという役(主演)で、海賊の首領・コンラッドを助けて恋に落ちます。
― 初心者としては、本当に無言劇であることに改めて感動したんです。思わず、何か言ってしまいそうになったりしないのでしょうか。
瞬間的に「危ない」などと思うことはありますが(笑)、台詞は言いません。でも自分の中では常に「喋っている感覚」があります。組んでいる相手の「声」も聞こえてきますので、「喋っていない」という感じで演じているわけではありません。終演後には「喋り疲れた」ような感覚にもなります。
― 踊りで物語を表現しているために、そうなるのですね。
身体の中では「喋って」います。レッスンのときも、振り付けをいただいた後、自分なりに「台詞」を使って表現を確認します。相手と噛み合っていないと感じたときには、「私はこう言っているんだけど」と確認することもあります。物語の(伝えたい)意味が違ってくるのは避けたいので。
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